投資計画
この記事は投資商品の勧誘・助言を目的として記載しているものではありません。投資につきましては全て自己判断・自己責任で行うようお願いいたします。
以下は、今後数ヶ月間の私のポートフォリオにおける投資戦略の概要である。 これは、ポートフォリオの資産配分を包括的に評価するものではなく、先に述べたマクロ的な考察に基づき、債券と株式に対する私の現在の考えを示したものにとどめている。また、この記事には、ポートフォリオレベルのヘッジは記載していない。
ポートフォリオは、長期のマクロと短期のタクティカルの債券、株式、コモディティで構成されるマルチアセット型である。昨年2月以降、ポートフォリオはネット・ショートだが、過去の記事で指摘したように、FRBがインフレとの戦いの第二段階に入り、多くの課題を抱えることを見越して、昨年の第4四半期中にリスク・エクスポージャーを減らして現金比率を増やした。
債券とクレジット
昨年春から国債をショートしているが、ここ数か月間でエクスポージャを減らした。
債券市場は左のテールリスクのみを想定しているため、債券を保有することがコンセンサスになりつつある。 しかし、以前から指摘しているように、景気後退、インフレ率の目標値への低下、FRBの早期ピボットなどを前提に債券のロングポジションを積み上げるのは、マクロやクロス・アセットのボラティリティから生じる様々な可能性を無視した、時期尚早で強気すぎる姿勢であると考えられる。
まず、経済は依然として堅調であり、サービスインフレの持続的な低下と労働市場の減退を引き起こすには、予想以上に時間がかかることが明らかになってきている。更に前述したように、新たにインフレを慢性的に高止まりさせるような要因も出現している。このような背景から、昨年の利回りの大幅な上昇を受け、今後の上昇余地は少ないものの、FRBが追加利上げやQTによる金融引き締めを継続する中で、利回りが上昇するリスクは依然として残っていると考えられる。
第二に、債券市場はFRBが予想するターミナルレートのピーク値を適切に織り込んでいるが、ピークレートを長期に維持するというFRBの意図は織り込んでいない。これは、予想されるターミナルレートが抑制的であり、その結果、深刻な不況を誘発するため、FRBが高金利水準を長く維持することはできないと債券市場が織り込んでいるためである。しかし、FRBはインフレ抑制のため実質リセッションを起こそうとしている中、経済の堅調さを考慮すれば高い金利水準を一定の期間維持する必要があると考えられる。また、合理的に考えると市場が予想したレベル以上に利上げが行われれた場合、景気後退が加速することが考えられるため、FRBがより迅速にピボットすることが期待できる。そうすると、現状の債券市場の動向は非論理的に思える。要するにターミナルレートが市場予想してる範囲内にある限り、ピボット無しでは利回りの平準化が長期化すると思われ、その結果、債券のアップサイドは限定的であると考えられる。
第三に、1970年代の高セキュラーインフレ期には、賃金インフレが進行したが、女性の社会進出による労働参加率の上昇で緩和された。 しかしながら、インフレは持続的であったため、FRBは景気後退局面で利上げに踏み切った。 現在の状況では、労働人口が増えるような同様のきっかけはなく、またインフレ再燃を恐れて、FRBがすぐに政策転換することはあり得ないと思われる。
最後に、前述の通り、今後高セキュラーインフレ環境に移行することが考えられるため、インフレ率は目標水準まで下がらないリスクがある。 これに加え、償還によるリファイナンスと急増する財政赤字支出を賄うための債券の純増、引き締め政策の継続と予想されているYCCのさらなる柔軟化によるグローバル金利の上昇により、タームプレミアムが復活することになると考えられる。 その結果、デュレーション・リスクのボラティリティが上昇し、長期債の利回りが上昇すると考えられる。
このことから、目先のブルスティープニングを期待してのフロントランニングは時期尚早と思われ、まずはFRBの意図に沿うように債券市場の動向が再調整されるのを待つ必要がある。 尚、ロングの建設的なエントリーポイントは、労働市場が過去の記事で指摘した2段階の水準まで持続的に減退した時に、短期債を中心に徐々に買い始めることであると思う。
FRBが政策転換した時点で、イールドカーブは確信的にブルスティープ化し始め、短期債の利回りは長期債の利回りよりも急速に低下することになる。尚、FRBの事後的対応のスタンスを踏まえるとFRBがピボットをした時点で、リセッションが既に発生していると考えられる。尚、セキュラー・インフレ環境下でもリセッションの場合、国債が株式やコモディティよりも良い結果をもたらす。
一方、ロングでは、ブレイクイーブンが2%台前半であることから、市場は高セキュラーインフレへの移行に伴うインフレ持続リスクを誤って評価していると考えられる。 従って、TIP(インフレ連動債)は有効な債券投資と考えられるが、これはリセッションの深刻さ次第なので、引き続き注視していくことを考えている。
クレジットについては、業績の後退を見込んで、また現在の短期債の利回り水準を考えると、投資適格債やハイ・イールド債は、これらの社債の背景にあるクレジット、流動性、デュレーション・リスクを補うには現在十分なプライシング水準に達していないと言える。更に、これらの債務者・発行体のバランスシートはGFC時よりも健全であるが、Higher for Longerによる持続的な資本コストの上昇から引き起こされるキャッシュフロー・リスクは、織り込まれていないと考えられる。そうすると、市場が長期化する引き締め政策を織り込み始めると、 クレジット・スプレッドは適正なリスクに見合ったプライシングを反映する水準まで拡大すると考えられるため、昨年2月からショートしている特定の社債ETFを継続する。
株式
株のポートフォリオは昨年2月以来、ネットショートを続けているが、ここ数ヶ月でショート・エキスポージャーを減らした。
債券市場とは対照的に株式市場は右のテールリスクをプライシングしており、軽度の景気後退リスクさえも織り込んでいない。米国経済の堅調さ、そして中国の再開による世界経済の成長期待の高まりから、市場は現実的な業績後退を第2四半期から下半期まで織り込むことはないと思われる。
しかし、FRBが金融情勢の緩和に応じにくいため、持続的な上昇局面は期待できず、その一方で株式市場は新しいデータやニュースに過剰反応し、インフレ低下と世界的な景気回復を想定した経済成長(ソフト・ランディング)を織り込み続けると思われる。従って、前回の記事で述べたように少なくとも第1四半期、場合によっては第2四半期まで、高水準の上昇と下落を繰り返す荒い相場展開が予想され、短期トレードには望ましい環境になると思われる。また、株式市場は業績が底を打つ前に底値を迎える傾向があることは覚えておきたいポイントの一つである。
その他、タクティカルなショート・ポジションの対象として特定のカナダ株をウォッチリストに入れている。カナダの住宅ローンは3年から5年未満のものが多く、その殆どが今年から来年にかけて借り換え時期を迎え、数年前に設定された金利よりもはるかに高い金利でリファイナンスが実施されることが予想される。更に、G7諸国の中で、カナダは家計負債が最も大きく、また所得に対する住宅価格の割合で測定すると、住宅価格が最も高い国の一つである。
ロングの方では、タクティカルのポジションとして中国株をポートフォリオに組み入れている。中国は、いずれ訪れる世界の緩和サイクルを先行しているように思える。昨年夏、私は早まった中国株のロング・ポジションの判断を下し、損切りをした。 しかし、緩和サイクルの開始とゼロ・コロナ政策の終了を背景に、経済の再開が現実的になり、潜在需要が解放されることで経済成長が加速されることが考えられるため、11月にタクティカルのアセット・アロケーションの一環としてコールスプレッドでロングポジションを再開した。
その他ロングのウォッチリストに取り入れているのが、コモディティ関連の重要な輸出国の一つであり、ロシア制裁の恩恵を受けているブラジルである。 ルーラの左翼的な政策と最近の政変は懸念材料だが、政治的リスクの先が見通せるようになり、ドル安が持続的に進行すれば適切なエントリーポイントが訪れると予想している。
長期投資では、2020年以降、原油、天然ガス、ウランの探査・開発・生産に携わる様々な企業の株式を保有している(ウランについては過去の記事で紹介している)。また、金、銀、銅の鉱山関連銘柄も長期投資ポートフォリオに入れている。今後、ESGによる深刻な供給制約からくる良好な需給環境と、セキュラー高インフレへのレジームシフトを見込み、コモディティ/ハードアセットへの投資をタイミングを見計らって増やしていくことを考えている。
ドル
最後にドルについて考えたいと思う。
ドル高を進行させる要因として 第一に、FRBの利上げとQTの継続が、ドルの資金需要を持続的に高めると考えられる。第二に、財務省は2023年と2024年に国債を大幅に追加発行する予定だが、前回の記事で説明したように、米国外からの需要は期待できそうになく、利回り上昇によりドル高を加速させる可能性がある。
これに対し、円と中国からは対抗的な影響力が現れている。 まず、10年の円スワップレートが1%に近づく中、日銀は0.5%の上限を守るため、すでに13兆円もの10年債を買い入れているが、日銀がYCCを防衛することは不可能になりつつあると考えられる。 日銀がYCCバンドを引き上げたり、放棄したりすれば、世界の金利は上昇し、円高ドル安が進むと思われる。 しかし、日銀がYCCを守り続ければ、円はYCCによるプレッシャーを放出するため、円安ドル高になることが考えられる。
中国に関しては、再開が現実味を帯びてきていることから、世界的な不況を防ぐために必要な経済成長の後押しになる可能性がある。この点から、もはやドルに対する安全資産としての需要が軽減することが考えられる。更に、EUの景気回復の見通しとエネルギー価格の低下により、ECBの更なる利上げとQTが予想され、対ドルのスプレッドが縮小することから、ドル安が進むと考えられる。
このように相反する勢力が綱引きをしているため、近い将来、ドルはレンジ相場になる可能性がある。 しかし、市場はFRBのピーク金利の長期化に伴うリスクをまだ織り込んでいないため、Higher for Longerが現実的になり、それを市場が織り込み始めればFRBがピボットをするまでにドル高がもう一度再開するリスクがあると考えられる。
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