2023 パート1

市場分析
市場分析米国経済

2022年の特徴は、FRBがインフレは一時的なものではないことを認識した上で、強硬な引き締め政策を実施し、インフレ対策に加速的に着手した年であった。 また、2022年は世界的に工業生産の減少が同時進行し、ドル高がこれに拍車をかけた年でもあった。投資家にとっては、テールリスクが深刻化した年であり、マクロの下降トレンドと逆上昇トレンドが予想をはるかに超えた年であった。

しかしながら、2022年にプラスのリターンを上げ、ベンチマーク指数を上回ることは格別に困難なことでは無かった。ベアマーケットラリーはあったにせよ、全体のマクロトレンドは紛れもなく下落傾向であり、金融政策は引き締まり、過剰流動性は排出し、2020年から2021年にかけて富を生み出し、「なんでもバブル」という言葉を生んだフリーマネー期は終焉を迎えつつあった。

そのため、株は一斉に再評価され、特に異常に高倍率を指示したロング・デュレーションの銘柄は大きく下落した。当然、NFT、SPEC、暗号通貨、過大な成長期待を抱いたハイテク関連株など、「何でもバブル」の産物は、その過程で全て壊滅的な打撃を受けた。

債券も同様2022年に壊滅し、投資家は60/40のリスクパリティ・ポートフォリオの有効性を再考せざるを得なくなった。 しかし、フリーマネーの環境からインフレ抑制のために迅速に実行された引き締め政策を考えると、これも予想できた結果である。

結果として、2022年はFRBの早期ピボット推進派からの絶え間ない主張に惑わされず、マクロ・ファンダメンタルズに忠実であり続けた投資家が利益を上げた年であった。その一方で、パニック的な売却はなく、リスク資産や債券のリプライスは概して整然と行われたため、ボラティリティのトレードには厳しい環境であった。特にプットは長期リスクに対するヘッジとしては全く機能しなかった年でもあった。

では、2023年には何が予想され、何が市場の主要な障害となるのだろうか?今年は以下の要因で大きく上下に変動し、2022年に好調だったトレンド戦略が苦境に立たされることになると私は考えている。2023年もマクロのリスクは引き続き下降トレンドだが、昨年のように単純ではなく、今年は荒い展開になると思われる。

市場流動性

まず、利上げサイクルが終了に近づくにつれて、流動性が中心的な役割を担い、2023年の重要なテーマとなる。 市場は長年にわたる緩和的な金融政策にさらされてきたため、金融環境を正常化することは困難なことである。 それでもFRBは昨年度のQTを順調に管理し、ピーク時の2021年12月以降、1.6兆ドルの過剰流動性を金融システムから排出させた。 しかし、リバース・レポ(RRP)の残高が2.4兆ドルであることから、金融システムには依然として過剰流動性が残っているのが現状である。

流動性の低下は論理的にあらゆるリスク資産に深刻な悪影響を及ぼすため、継続的な引き締めの結果、リスクがどのように変化しているかを理解する必要がある。

まず第一に,QTはFRB がバランスシートの規模を縮小するために用いる手段である。保有する国債とMBSの資産が毎月950億ドル減少すれば,負債も同等の規模で毎月減少することになる。しかし,FRBは負債側をどのように減少させるかについて殆ど影響力がないため,QTを維持することは簡単なことではない。 今までのところ,銀行準備金が負債の減少の大半を占めており,これはFRBと市場にとってリスクとなっている。 金融システムが円滑に機能するためには、銀行が十分な準備金を保有する必要がある。 つまり、銀行の準備金が金融市場の円滑な運営に必要な水準を下回れば、金融市場は揺さぶられることになる。理想的には、負債の減少は銀行準備金ではなく主にRRPから得られることである。しかし、RRPの主要投資家であるマネー・マーケット・ファンド(MMF)がその投資をT-Billに振り向ける経済的インセンティブがないなどの理由により、MMFはRRPへの投資を続け、結果としてRRP残高が高止まりしているのである。

現在の銀行準備金残高は3兆ドルで(下図赤線)、2021年12月に記録した4.25兆ドルから1.25兆ドル減少している。 試算では、適切な銀行準備高はGDPの8%(下図青線-現状12%)、つまり2兆ドル程度に相当するはずだが、経済全体のレバレッジ水準を考えると、2兆5千億ドルとも言われている。 いずれにせよ、銀行準備金が負債サイド減額の主要な財源であり続ければ、QTを早期に終了するか、縮小するかになる。これは、間違いなく流動性のピボットと市場は見なすことになる。

尚、FRBは2019年の第一回目のQTでは、銀行準備高が1.5兆ドルを割り込み、金融市場が不安定になり、リスク資産が売られ、結果的にQTを早期に打ち切った。上記の通り、今回のQTが、銀行準備金の全体的な減少にもかかわらず、今まで秩序だったのは財務省が債務上限(Debt Cap)を遵守するために財務省の預金口座(TGA)から資金を定期的に放出させたことが主な要因である。昨年英国の債券市場に亀裂が生じた直後、金融システムに流動性バッファーを提供するためにTGAから資金が放出したのもこの一貫である。これは、継続的な引き締めと同時に密かに行われ、追加的な市場への流動性の注入となり、一時的にリスク資産が高騰する引き金となった。

今後、財務省は必要に応じてTGAを使い限定的に市場の流動性を確保するとことも考えられるが、中間選挙も終わったことから今までのような定期的な放出はないと思われる。尚、債務上限(Debt Ceiling)の協議は夏にかけて本格化することになるため、それに向けてTGAの残高は最小限のレベルに落とされることも注意するポイントである。

最後に、ECBが本年度第一四半期からQT(15億ユーロの資産購入プログラム(APP)の縮小)を開始すると同時に、BOEとカナダ中銀(BOC)がQTを継続することにも注目する必要がある。また、TGAからの定期的な流動性の注入などがない可能性なども踏まえると、流動性収縮の影響が本格的に市場に現れるのは本年度からと考えられる。従って、FRBは今後のQTには最大限の注意を払うだろうが、それでも債券ボラティリティはしばらくの間高止まりすると思われる。これらのことから、今年の上半期は流動性の水準を今まで以上に注視する必要がある。銀行準備金とRRPの残高,FF金利目標値と実効値のスプレッド,FF市場の取引量などが,市場の流動性ストレスを測る指標として使うことが出来る。

試されるFRB

金融市場がFRBの行動を疑問視し続けると,FRBの意図した目的とは逆に金融情勢(FCI)が緩和され,FRBは長期にわたって引き締めを余儀なくされる。これは特に2023年に言えることで、利上げサイクルが終盤に近づくと、市場は今まで以上に早期ピボットを期待するようになる。また、FRBがインフレ率を目標値まで下げるために景気後退を仕掛ける必要があることが明らかであるにもかかわらず、労働市場が悪化し始めると議員がFRBに対する率直な批判者となるため、公然と積極的な引き締めをFRBが主張できなくなることから、市場は引き締めをより期待する傾向が強まると考えられる。

プレッシャーに屈して早期に政策転換をすると、2024年にインフレを再燃させるリスクがあり、過度の高水準のレバレッジと相まって、2024年以降にバーンズ時代をはるかに上回る経済的困難を引き起こすことになる。従って、FRBがタカ派政策を続けることは当然だが、市場はこのようなリスクにもかかわらず、FRBが早期に政策転換すると推測し続けると思われる。

以上のことから、市場は新しい経済データやニュースに対して2022年よりもより敏感になり、過剰反応を起こして上下のボラティリティが高くなることが予想される。

円について

3つ目のスイング・ファクターが円である。 日銀の長年にわたる積極的な金融緩和政策は、数十年に及ぶデフレから経済を脱却させるためのものであった。 しかし、世界的なインフレが進行する中で、物価は上昇したが、それは健全な経済成長を反映した形ではなかったため、物価上昇そのものが問題視される結果となった。

世界的なインフレが高止まりしている中で、FRB、ECB、BOE、BOCがタカ派的な傾向を続けているのは当然のことで、日銀が転換するのは必然だと思われたが、そのタイミングは純粋に予想外だった。 私自身は、4月の日銀新総裁就任後の転換を予想していた。 しかし、円安をコントロールできなくなり、債券市場の流動性が低下し、JGBが市場機能を失っていることを考えれば、このタイミングでの日銀の転換は今になってみれば理にかなっている。

今後、市場が最終的に利回りをYCCの上限まで押し上げることを日銀が止められるだろうか? 市場が再びイールドを押し上げた場合、日銀が現在の方針を継続することは現実的なのだろうか? 市場は今回の日銀の動きを金利正常化サイクルの始まりと見なすだろう。そうすると次の動きとしてコアインフレ率が3.6%、短期金利がほぼゼロであることを考えると、短期金利の引き上げを市場がいずれは本格的に想定し始めることが考えられる。そうすると、ECBの利上げによって引き起こしたリスクのように、日銀の動きも今後市場に新たなタカ派的な不確実性をもたらすことになる。

その結果、非対称的な円高になるリスクが考えられる。 円高になった場合、日本で作られる製品の価格を上げ、日本に持ち込まれるグッズ、特に原油及びその他コモディティの購買力を高めるため、経済効果として海外にインフレを実質的に輸出することが考えられ、その結果、今後長期のインフレ期待値が引き上げられることが考えられる。

イールドの水準

利回りに関しては、インフレ率の低下と成長率の鈍化というコンセンサスが形成されていることから、債券利回りの低下が予想される。 その一方で、米国債の需要は対照的な様相を呈している。 日本の投資家は2022年10月の時点で、総額1兆ドルの米国債を保有している。 しかし、為替ヘッジコストの増加から、米国債の購入はもはや採算が合わなくなっている。 さらに、今後予想される国債の新規発行が巨額で、3兆ドルの満期借換えと1兆ドルの赤字支出に充てられることから、誰が米国債の主たる投資家となるのか? 日本に次いで2番目の米国債投資家である中国の保有額は12年ぶりの低水準に落ち込んでおり、ネット・セラーとなっているのが現状である。 そうすると主に米国の国内投資家になると思われるが、日本や中国の投資家が残した大きなギャップを埋めることができるのかがポイントだと考えられる。

私は、コンセンサスとは逆に、これまでのコラムで何度も述べてきたように金利上昇のリスクはまだ残っていると考えている。従って、リセッション・リスクを先行的に織り込んで、債券を積極的に投資するのは、まだ時期尚早であると考えている。(尚、私が利回り上昇のリスクにバイアスをかけ、債券に弱気である理由については、過去のコラムに詳述しているので、そちらを参照下さい)。

尚、最近の動きと予想される動きが従来の相関関係を無視しているため、私を困惑させているのが、ドルの値動きである。 これは、市場が開いて通常の取引量を再開する今週と来週に見通しが良くなると思われる。

この記事の第2部を後日掲載する予定です。

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